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 尖閣研究 尖閣諸島海域の漁業に関する調査報告 

 ― 沖縄県における戦前~日本復帰(1972年)の動き 2009年 -

発刊のあいさつ

 尖閣諸島は、東シナ海南部に浮かぶ無人の島じまで、魚釣島、南小島、北小島、久場島、沖の北・沖の南岩、飛瀬 、大正島からなり、行政上は石垣市字登野城に属している。
 1978年に沖縄県が実施した「漁場利用調整対策会議―尖閣諸島海域の漁場利用について―」によると、同諸島は― 東シナ海大陸棚の外縁部に位置し、大陸沿岸水と黒潮系水の混合水からなり、この大陸沿岸流と黒潮の混合によっ て生じる潮目が好漁場を形成する一つとされている―そうである。つまり好漁場である。
 私の専門は植物社会学であり、漁業に関してここであれこれ言うのは調査報告の本文に譲る。代わりに、過去に6度 、同諸島での植生調査をした中で確かに魚類が豊かな場所だと感じた思い出を2,3述べたい。1953年の初調査は地元 沖縄の水産学校(開洋高校)の練習船で渡島したが、その際は練習生の釣り上げたシイラやサワラの刺身に舌鼓を打っ たものである。
 1979年、沖縄開発庁による調査に参加した際も食事時には新鮮な刺身が調査団の食卓を賑わせた。翌1980年、NHKの番 組制作の際は黄尾嶼(久場島)で磯釣りを試みたが、釣糸を垂らすと面白い様にイラブチ(ブダイ)が釣れた。あれを入れ 食いというのだろう。私の参加した調査だけでなく、他の調査、例えば1970年に実施された九大長崎 大学の合同調査報告書によると、調査団は移動と食糧調達の為に漁夫1人(サバニ付)を雇入れており、絶海の孤島の調 査にしては中々の食事を楽しんだようである。
 参考までにメニューの一部を紹介すると、魚釣島キャンプ時の、12/11朝食は“米(1.2升)、みそしる、タクアン、ふりかけ” 、昼食“カンパン、ソーセージ、チョコレート”、夕食“米(1.0升)、サラダ、タイ・カツオ・ハタ刺身、ウツボ煮付、フリカケ”。12/12朝食は“カ ツオフレーク、みそしる、ウツボバター焼、米”、昼食“レーズンクラッカー、チーズカマボコ”、夕食“米(1.2升)、サラダ、シチュー、カツオフレーク” 、等々である。昼は調査に費やされるため軽食が主だが、夕食などは刺身がふんだんに振舞われており、同報告書には 「食生活に関して無人島に10日間もいたのだという実感が今だに湧いて来ないのは私一人であろうか?」とまで書かれ ている。
 釣竿さえ用意していれば、尖閣諸島での調査は食事の心配は要らないのではないか。思い出話はこの辺で切り上げて今 回の漁業に関する調査に戻ろう。

 尖閣諸島周辺は一般に魚族豊かな好漁場であると言われているが、尖閣諸島の漁業―漁場調査、開発利用に関する資 料は乏しく、その全容は明らかでない。
 明治中期、古賀辰四郎によって、同島の開拓・開発がなされ、100余年の歴史と実績を有しているが、古賀氏以前・以 後の尖閣諸島の漁業は詳らかでない。
 沖縄県は、戦前戦後を通して、公的機関による漁業資源調査、漁民による漁業開発利用を行ってきた。とりわけ、米 軍統治下の琉球政府期において尖閣諸島の漁場がどのように扱われ、どのような漁業が為されたかは興味ある出来事で ある
。  これらについても、とりまとめた資料は僅かであり、その全容は不明である。 幸いにして、今回日本財団より研究助成金が交付されることになり、尖閣諸島における漁業について調査できる機会 を得た。調査に関しては同諸島における漁業関連資料を幅広く収集し、かつ集めた資料を総合的にまとめることで、 漁業状況の全体像を明らかにしようと試みている。  具体的には、戦前・戦後・尖閣諸島における漁業、すなわち、沖縄県における戦前から1972年日本復帰迄の漁業調査 、開発利用状況について、①「戦前・尖閣諸島海域における漁業」②「尖閣諸島海域における漁業調査」 ③「終戦・琉球政府期・尖閣諸島海域における漁業」の3項目に分けてそれぞれ調査、報告をまとめた。

 調査には凡そ17カ月費やしたが、それぞれ収集した資料は断片的であり、残念ながら今回の調査では尖閣諸島 における漁業―沖縄県における戦前~日本復帰(1972年)の動き―の全容を解明するまでには至らなかった。が 、これまで尖閣諸島の漁業の全容が明らかにされていなかっただけに、本調査報告が些かでも、解明に資するこ とができればと思っている。
 また、これを契機に、尖閣諸島における漁業に関する調査研究が進展することを期待したい。私共編纂会も、 今後も、同調査研究に取り組んで行く所存である。
           ・・略・・
 本調査報告の作成に際しては、多くの機関や漁業関係者の方々からお世話頂いた。
 下記に名前を記してお礼申し上げる。
 沖縄県水産海洋研究センター(沖縄県水産試験場)、沖縄県立図書館、沖縄県公文書 館、大日本水産会、全日本漁連、沖縄県漁連、那覇地区漁協、糸満漁協、伊良部漁 協、池間漁協、宮古島漁協、八重山漁協、与那国漁協、他

、                        2010年(平成22年) 8月31日
                        尖閣諸島文献資料編纂会
                          会長 新納 義馬




尖閣研究 尖閣諸島海域の漁業に関する調査報告

― 沖縄県における戦前~日本復帰(1972年)の動き 2009年 -

         目次
 発刊のあいさつ 

  尖閣諸島とは 
§1、戦前・尖閣諸島における漁業
  Ⅰ.尖閣諸島領有までの歴史的概要・・・・・・・・・・・・7
    Ⅰ-1琉球王国時代~廃藩置県以前
    Ⅰ-2廃藩置県~日本領土編入まで

  Ⅱ.領有以前の沖縄県の調査 ・・・・・・・・・・・・・・11
    Ⅱ-1 出雲丸による尖閣諸島調査
    Ⅱ-2 県属塙忠雄の聞取調査
    Ⅱ-3 沖縄県八重山島取調書

  Ⅲ.日本領有以前の尖閣諸島における漁業 ・・・・・・・・19
    Ⅲ-1 夜光貝と糸満漁夫
    Ⅲ-2 民間人の漁業活動
          〔松村仁之助・伊澤弥喜太・糸満人〕

  Ⅳ.領有後の尖閣諸島における漁業(上)と古賀辰四郎 ・・・・・24
    Ⅳ-1 尖閣諸島の領土編入
    Ⅳ-1 古賀辰四郎の尖閣諸島経営
       〔海鳥、羽毛採取、鱶鰭、夜光貝、鰹漁、其他〕

  Ⅴ.領有後の尖閣諸島における漁業(下)と古賀辰四郎の死・・・46
    Ⅴ-1 尖閣諸島における鰹漁〈褒章受章後〉
  〔古賀商店鰹漁船の変遷と考察〕
    Ⅴ-2 沖縄県外船の進出
          〔台湾船、鹿児島船、高知船〕

  Ⅵ.結語 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・58
  Ⅶ.参考資料 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・59
    ①文献資料抜粋集・・・・・・・・・・・・61
    ②琉球新報広告他短信集・・・・・・・・・90
    ③琉球新報記事抜粋集・・・・・・・・・・96
    ④沖縄毎日新聞他記事抜粋集・・・・・・・105
    ⑤官報・公文書関係抜粋集・・・・・・・・116
    ⑥古賀辰四郎氏褒章資料・・・・・・・・・130
    ⑦尖閣列島と古賀辰四郎氏・・・・・・・・151
    ⑧尖閣諸島における漁業資料〈台湾篇〉・・・167
    ⑨高知県・鹿児島県水産試験場事業報告・・184
    ⑩雑録・・・・・・・・・・・・・・・・・195

§2、尖閣諸島海域における漁業調査
  Ⅰ.戦前・沖縄県立水産試験場の漁業調査 ・・・・・・・・201
    〔 鰹漁業試験、鮪漁業試験、海洋観測 〕

  Ⅱ.戦後・琉球水産研究所の漁業調査
    Ⅱ―1 琉球水産研究所の漁業調査・・・・・・・・・・211
      〔 サバ漁場調査、一本釣試験調査(マチ・タイ類)
       カツオ・マグロ漁場調査等、海洋観測 〕

  Ⅱ―2 他機関の学術調査・・・・・・・・・・・・・・246
    〔 尖閣列島共同学術調査、黒潮協同調査、潮流調査、
              海岸魚類・無脊椎動物調査 〕

§3、終戦~琉球政府期・尖閣諸島海域における漁業
  Ⅰ.漁業の概要
    Ⅰ-1 沖縄民政府期(終戦~1950年)・・・・・・・255
    Ⅰ-2 琉球政府前期(1951~1960年)・・・・・・・・267
    Ⅰ-3 琉球政府後期(1961~1972年)・・・・・・・・294
  Ⅱ.漁業者への聞き取り・・・・・・・・・・・・・・・・・・311
  Ⅲ.漁場図・漁船の操業状況
    Ⅲ-1 尖閣諸島海域の漁場図・・・・・・・・・・・341
    Ⅲ-2 沖縄漁船の操業状況・・・・・・・・・・・・347
    Ⅲ-3 漁獲対象の魚・・・・・・・・・・・・・・・350
  Ⅳ.補足、尖閣諸島をめぐる動き 
    Ⅳ-1 台湾漁船の不法入域・操業等・・・・・・・・353
    Ⅳ-2 尖閣諸島周辺海底油田問題等・・・・・・・・369

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